成績優秀。
眉目秀麗。
スポーツ万能。
家は大資産家。

そんな完全無欠の彼女の欠点。

とてつもない悪人で、タチが悪く、大嘘吐きであるということだ。




『吐く息は嘘のように』


空が深い青緑色に染まり、微妙な雰囲気を醸し出していた。
その背後からは黒い雲が迫っており、これまた微妙な雰囲気だった。
彼女の長くゆるくウェーブされた髪はきめ細やかに揺れる。
うんざりするくらい次のような事を友人から言われるのだが、

「いいなぁ、お前はよ。こんな美人な女の子が幼馴染でさぁ」

全くよくない。
俺だってこんな嘘吐きじゃなかったら「結婚してくれ!」と言いながらベッドに連れ込むはずだ。
彼女の性格をよく理解しているから、恋愛感情は微塵も沸かない。

前記にもあったように、彼女、榊原は大悪党である。
いじめや差別…と言った類ではないのだが、人を煽ること、そそのかすことが大得意な悪女。
どうやら俺以外は気付いてないらしいが。
女の子と秘密の約束なんて嬉しいが、相手が榊原ならもうそんなものは密約とか国家機密のようなドロ臭さがする。
表向きは『優しく素直で、守りたくなる女の子☆たまにドジッちゃうけど、可愛い笑顔にはそんなことは通用しないよね♪』のキャッチコピーが通っている。

いいか、騙されている男共。
………または、女共も言ってやりたい。
『賢い悪女』は『優しく素直で、守りたくなる女の子☆たまにドジッちゃうけど、可愛い笑顔にはそんなことは通用しないよね♪』のような女の子も演技できるのである。
忠告だ。もう騙されないでくれ!

…確かに『うつくしい』というより『フワフワで可愛い』だけど。


「どーしたの、生明くん」

字面じゃ読めないよな。俺の名前は“アザミ”だ。
生きるに明らかと書いて生明。
よく“イクアキ”と読まれるがまったく違う。
珍しい名前だろう。親のネーミングセンスに泣けてくる。

「…何でもない」
「もしかして私に惚れた?」
「んなわけねーだろ」
「だよねー。私はアザミくんのこと好きだけどねー」

嬉しくない。
まったく 嬉しく ない。
どうせそれも嘘だからな。

「好き!大好き!」
「はいはい」

まだこんな関係を繰り返すんだろうと、彼女の蕩けるような笑顔を見てそう思った。







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