死人に口なし。

だが、大体ちゃっかりしているものである。
遺書や生前の行動で死後にメッセージを残すこともできる。

金融業界の将とも言われる五百蔵家の当主・勘九郎は財政界にも太いパイプを持っており、一目置かれていた。
彼が厳かな音で言葉を発する度に、周りの大人は震え上がったものだ。
そんな様子を、陰からこっそりと幼い頃から見てきた。
僕の姉・五百蔵咲楽はそんな祖父から天女、と呼ばれた。

成績優秀、文武両道、容姿端麗、凛々しい性格。
細い腕は男より強く、
見開いた眼は誰をも魅了し、
形の良い桜色の唇から物を申せば人が集まり、
破天荒な柄は大人たちの想像を凌駕する。



それこそが、五百蔵家に相応しい女性。
まさに僕の姉は具現化されたような女なのである。
万人が聞けば、必ず祖父の理由は納得されるのだ。
もともと筋が通らないようなものでも、首を頷かざるを得ないのだけれど。

一方の情けないという声が上がっている僕―――薄荷は、当たり前のようにそれをコンプレックスと受け取る。
どこに勝ち目があるといいたいのだけれど、そもそもそこまで言うような内容でもない。
薄い荷物とよく陰口を叩かれる。僕は長男の子息だけれど、父親は姉以外興味ないので好きに言わせてやっている。
すべて運命なのだと言われると悔しい気がしないでもないが、僕は今日も元気です。
祖母から習う花札と三味線を嗜みながら、今日も生きている。


祖父が死ぬ、今夜までは。


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