今日は、私の誕生日の前日。
いつものように普通に働き積み重なった残業をこなし、やっとこさと仕事から帰ってくる。
時計は11時50分を指していた。
家族は当然ながら寝ているんだろうなあ、とひとり寂しく思いながら靴を脱いだ。
妻から「靴下は裏返して洗濯機の中に入れないで頂戴!」といつも言われているのを思い出して
靴下を剥ぐように丁寧に脱ぐ。
ネクタイを緩め、ひとつ溜息をつく。
「…ふぅっ…」
今日も頑張った、俺。
褒め称え褒美を自分にやる。
とても寂しいなぁ。娘か息子がいたらビールを注いでほしかったんだが。
冷蔵庫からぴちょんと冷たい音を立てて冷え冷えの缶ビールを取り出す。
リビングの椅子にどっしりと腰かけ、喉を鳴らしながらビールを呑む。美味し。
「…はー」
時計は11時58分を指している。
うああ、何か体が熱い…。
ビールのせいか、疲労のせいか。
うとうとと瞼が重くなり、首をこくこくと上下に動かす。
「お父さん、こんな所で寝ないでくださいよ」
娘の抑揚のない声が聞こえ、視線を上げると頭に衝撃が入った。
あ、すごい痛い。何で俺今殴られたの。
殴られた時は感覚が麻痺していたが遅れて鈍い痛みがトットコとやってくる。
パッと部屋が明るくなり、パンパンパン!と乾いた音がした。
紙吹雪が舞って、頭に大量にかぶさってくる。
目の前がとてもカラフルだ。
「「パパ、誕生日おっめでとおおおう!!!」」
何か妻と息子がやってきた。
妻が「これ、何だっけ?アゲぽよって言うの?」
息子は「そーだよ!!!おめでとう!!!」
娘は「…。」
と各々の感情を露わにしている。
この空間と状況にひとりだけ取り残されているみたいだ。
息子がいつもの可愛らしい(俺に似た)笑顔で「はい!」と綺麗にラッピングされた包みを突き出してきた。
妻はケーキの店らしき箱が入った袋をにこやかな笑みを浮かべながら持っている。
娘は相も変わらずの無表情で、「…どうぞ」と色紙を手にしている。
「今年最初の家族の誕生日です」
俺が色紙を手に取ると、同時に娘は時計を指差した。
丁度、0時。3月21日。
「…確か、言っていたわよね、あなた」
妻が先程とは違う、淑女のような柔らかな笑みを浮かべて言う。
「結婚式の時、小声で”俺は俺の誕生日ぴったりに生まれたんだ”って」
15年付き添ってくれて、苦しい時、悲しい時、嬉しい時、喧嘩だって半分こした。
結婚式の時、妻だって”私はあなたと未来永劫、ずっと寄り添いますからね”と、
…言ってくれたじゃないか。
その言葉だけでも何でも出来そうな気がした。何なら空だって飛べる。
宇宙飛行士になって火星の中で輝く石を拾ってきて、指輪としてプレゼントできる。
総理大臣になってファーストレディとして、輝かしい人生を送ることができる。
15年寄り添ってくれて、…確か15年前の結婚式もそう思った。
だがそんな俺を察したのか、妻に続けて娘が言う。
「貴方の今までの人生が一瞬でも違っていたら、私や弟は生まれてきませんでした。
母だって違っていたかもしれません。だから今のまま、平凡で一般的で、家のローンはまだまだありますが、
そんなもの家族で返していけばいいんです。私もやってやりますよ」
娘が薄く笑った気がした。
色紙には息子の絵と娘の字と、妻が飾ったテーピングがあった。
どれだけ質素でも今までの人生の中で今までの誕生日の中でまたその誕生日の中のプレゼントの中では、
これが、世界一だ。
「おめでとう、世界一情けなくてかっこいいお父さん」
――――――――――――48年前の今、俺はうまれた。
今日、私の父の誕生日ということで小説を書きましたとさ。
思ったより長くなったな…。(ブログに載せた当時が誕生日でした^ω^)
ちなみに3/21!
いつものように普通に働き積み重なった残業をこなし、やっとこさと仕事から帰ってくる。
時計は11時50分を指していた。
家族は当然ながら寝ているんだろうなあ、とひとり寂しく思いながら靴を脱いだ。
妻から「靴下は裏返して洗濯機の中に入れないで頂戴!」といつも言われているのを思い出して
靴下を剥ぐように丁寧に脱ぐ。
ネクタイを緩め、ひとつ溜息をつく。
「…ふぅっ…」
今日も頑張った、俺。
褒め称え褒美を自分にやる。
とても寂しいなぁ。娘か息子がいたらビールを注いでほしかったんだが。
冷蔵庫からぴちょんと冷たい音を立てて冷え冷えの缶ビールを取り出す。
リビングの椅子にどっしりと腰かけ、喉を鳴らしながらビールを呑む。美味し。
「…はー」
時計は11時58分を指している。
うああ、何か体が熱い…。
ビールのせいか、疲労のせいか。
うとうとと瞼が重くなり、首をこくこくと上下に動かす。
「お父さん、こんな所で寝ないでくださいよ」
娘の抑揚のない声が聞こえ、視線を上げると頭に衝撃が入った。
あ、すごい痛い。何で俺今殴られたの。
殴られた時は感覚が麻痺していたが遅れて鈍い痛みがトットコとやってくる。
パッと部屋が明るくなり、パンパンパン!と乾いた音がした。
紙吹雪が舞って、頭に大量にかぶさってくる。
目の前がとてもカラフルだ。
「「パパ、誕生日おっめでとおおおう!!!」」
何か妻と息子がやってきた。
妻が「これ、何だっけ?アゲぽよって言うの?」
息子は「そーだよ!!!おめでとう!!!」
娘は「…。」
と各々の感情を露わにしている。
この空間と状況にひとりだけ取り残されているみたいだ。
息子がいつもの可愛らしい(俺に似た)笑顔で「はい!」と綺麗にラッピングされた包みを突き出してきた。
妻はケーキの店らしき箱が入った袋をにこやかな笑みを浮かべながら持っている。
娘は相も変わらずの無表情で、「…どうぞ」と色紙を手にしている。
「今年最初の家族の誕生日です」
俺が色紙を手に取ると、同時に娘は時計を指差した。
丁度、0時。3月21日。
「…確か、言っていたわよね、あなた」
妻が先程とは違う、淑女のような柔らかな笑みを浮かべて言う。
「結婚式の時、小声で”俺は俺の誕生日ぴったりに生まれたんだ”って」
15年付き添ってくれて、苦しい時、悲しい時、嬉しい時、喧嘩だって半分こした。
結婚式の時、妻だって”私はあなたと未来永劫、ずっと寄り添いますからね”と、
…言ってくれたじゃないか。
その言葉だけでも何でも出来そうな気がした。何なら空だって飛べる。
宇宙飛行士になって火星の中で輝く石を拾ってきて、指輪としてプレゼントできる。
総理大臣になってファーストレディとして、輝かしい人生を送ることができる。
15年寄り添ってくれて、…確か15年前の結婚式もそう思った。
だがそんな俺を察したのか、妻に続けて娘が言う。
「貴方の今までの人生が一瞬でも違っていたら、私や弟は生まれてきませんでした。
母だって違っていたかもしれません。だから今のまま、平凡で一般的で、家のローンはまだまだありますが、
そんなもの家族で返していけばいいんです。私もやってやりますよ」
娘が薄く笑った気がした。
色紙には息子の絵と娘の字と、妻が飾ったテーピングがあった。
どれだけ質素でも今までの人生の中で今までの誕生日の中でまたその誕生日の中のプレゼントの中では、
これが、世界一だ。
「おめでとう、世界一情けなくてかっこいいお父さん」
――――――――――――48年前の今、俺はうまれた。
今日、私の父の誕生日ということで小説を書きましたとさ。
思ったより長くなったな…。(ブログに載せた当時が誕生日でした^ω^)
ちなみに3/21!
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